牛助け
このオーストラリアの田舎にある牧場に家族で移住してきてしばらく経ちますが、今でも鮮明に覚えている事があります。
言葉の違う国に来て生活を始めた一年目はまさに右も左もわかりませんでした。この街の事を何も知らずに、どこに何があるかもわからず、ウロウロする事もしばしば。
ある日、テレビが家に無かったため、テレビのアンテナを取り付けて貰おうと電気屋さんを探していた時の事。
どうしても見つからずにいたので勇気を出してスーパーの駐車場に居たオジサンに声をかけ道を聞いた。ちなみにここは人口三千人の街で、ほとんどが顔見知りや友人知人ですから、我々はまさに違う星の人である。
そんな我々にそのオジサンは即答で「車で来てる?じゃあ俺に付いてきな!」と言って我々の車の前を走って電気屋さんまで先導してくれた。
これだけじゃない。今までにどれだけ地元の人に助けてもらったか数え切れない。
こんな風にいつも助けられ生きています。
助けると言えばつい先日の話し。
夕方に家族が僕を急いで呼びに来た。
どうやら子牛がグリッドに落ちたらしい。
「グリッド」というのは、写真のように隙間の開いた鉄のレールの事で、家畜がこの先に行かないように道路に掘った穴に被せてあるものです。
牛は脚が落ちるのを怖がり、ここを渡りません。
しかし、子牛はそんなの関係無し。
お母さんに向かって一直線ですからまぁ落ちます。
早速落ちた子牛を助けに行くと、いつもと様子が違う。
だいたいグリッドに落ちる場合は脚が落ちて身動きが取れなくなる。
しかし、今回はグリッドの隙間から後ろ足が出ている。
どうやら隙間にヘッドスライディングを決めたようだ。しっぽをフリフリ動かして、まるで助けを呼んでいるようだ。
近くでは何も出来ずに母親がモーモー鳴いている。
この母親はいつでも身体が大きい事から、子供達が「ビューティーさん」と名付けたおとなしい牛。
早速子牛を助け始めた僕にすがるように鳴いている。
子牛と言っても80キロはあるので結構重い。最後は長男と一緒引っ張りあげて一件落着。
すぐに僕の前でミルクを吸い始めた子牛を見て安心して家に帰りました。
めでたしめでたし。